時間になった。担当の看護師さんが「では行きましょう」と言って2人がかりでベッドをガラガラ移動し始める。「ああ、もう後には引けないんだなあ…」なんて当たり前のことを考えながら扉の前で家族に見送られ、大きなエレベーターで手術室に移動。
そこからはプロの方々により、どんどん準備が進む。あれよあれよという間に全裸にされ手術台の上へ。脊椎から麻酔が入れられる。全く痛くない。少しすると足元から温泉に浸かってるみたいになんだか温かい感覚になる。麻酔科医の先生が麻酔が効いているか体に触れて確かめていく。
「気分が悪くなったら教えて下さいね」と言われるが、緊張で「はい」と答えるのが精一杯だった。すごく怖い。怖いけど気丈にしてなきゃ。この手術に関わって下さるスタッフの皆さん、そして産まれてくる赤ちゃんの為にも、恐怖心を捨てて全てを任せよう…。
「それでは始めます」
きゃ〜〜、遂に体にメスが入る…!!ドキドキ…
当たり前だけど麻酔が効いているので痛みは全く無い。けれども触られている感覚はあるので何となく、何をされているのか分かる。それがとても怖かった。ああ、今頃私のお腹は…なんて考えたり考えないようにしたり、手術室の時計の針を見て気を紛らせていたら、「赤ちゃんもうすぐ出ますよ!お母さん頑張って!!」と言われ胸の下あたりを先生がものすごい力で圧迫してきた。切開した部分から赤ちゃんを出すためにお腹の上の方を押しているようだった。
フグゥ…!!何これ苦しい!!!先生聞いてないよ〜〜と思いながら私も歯を食いしばって耐える。
「フニャ…フン二ャー!フン二ャー!」
う、産まれた…!!!赤ちゃん産まれた……
安堵で自然と涙がでる。左側を産まれたての赤ちゃんが通っていく。「綺麗にしたらすぐに連れて来ますからね、お母さん頑張りましたね」と流れた涙を優しく拭きながら助産師さんが声を掛けてくれた。まもなくして赤ちゃんを胸の上に連れて来てもらう。ホカホカで温かい。小さいのに大きな存在感。目がうっすら開いて、目と目が合った。《私たち、頑張ったね!やったね!!》って言葉を心の中で交わす。
そこからは私の後処置。胎盤を綺麗に剥がすのに時間がかかっているのか、母体の後処置の方がずっと時間がかかる。「もうすぐ終わりますよ」先生の優しい声を聞きながら、私は体が震え出していた。寒くはない。ただ震えが止まらないのと、何だかボンヤリ気持ちが良い。ああ、死ぬ時ってこんなかなあと思う。
後から母子手帳を見たら出血が多量のところにマルがついていた。その後入院期間も貧血で倒れかけたり、退院後もしばらく大変な期間が続くとはこの時はまだ分からなかったのだけど。出産て本当に命懸けなんだな、と思った。
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